お知らせ
2025.07.05 (Sat) 14:12
── ムロオカ定食は、 僕の“人生のやり直し定食”です ── 第5話|すべてを失った話
第5話|すべてを失った話
── それは、全部、自分で選んだことだった。
とにかくつまらな過ぎた。
接客、料理、現場が大好きな僕は、裏方業に集中出来なくなっていった。
順調に見えていた経営の裏で、
自分の中に、じわじわとヒビが入っていました。
「何のために続けてるんだろう」
「この先に、自分の居場所はあるのか」
「もし裏切られたら──」
不安ばかりが頭をよぎって、
気がつけば、誰のことも信じられなくなっていたんです。
大好きだった料理にも向き合えず、自分の立つお店の空気は重くなっていきました。
やがて僕は、店を現場の店長たちに任せ、少しずつ距離を置きました。
そして本部の社長という立場も、信頼していた人物に譲りました。
「もう、自分がいなくても、回るだろう」
そんな甘さが、どこかにあったんだと思います。
でもそのたった9ヶ月後の──2020年。
コロナが、すべてをひっくり返しました。
最後に残っていた1店舗さえも、
気づいたときには、他人の手に渡っていて、
僕の名前は、どこにも残っていませんでした。
通帳にも、予定表にも、僕の居場所はなくて。
残ったのは、やり場のない虚しさだけでした。
「終わった」──そう思ったとき、不思議なくらい何も感じませんでした。
怒りも、悔しさも、涙も出てこなかった。
ただただ、空っぽでした。
でも、ふと思ったんです。
これは全部、自分が選んできた道だったって。
誰のせいでもない。
逃げたのも、任せたのも、譲ったのも、自分だった。
── 安心してください。
このあと、もっと深く、落ちていきます。