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第7話|海老フライが救ってくれた話

 

── あの日の黒板が、空気を変えた。

 

毎日が真っ暗だったあの頃。

厨房の奥で考え続けても、何も見えなかった。

 

ある日、ほんとに何も考えずに気まぐれで書いた「本日のおすすめ」。

手書きの黒板に書いたのは、“海老ヒレ丼”。

 

この時は市場で買ってきた少しだけ大きな海老と、元々あったヒレカツを合わせた、即興のどんぶり。

今程こだわりもせずに、作ったのも深い意味もなく、なんとなく自分が食べたかっただけ。

 

でもそれが、なぜか売れたんです。

お客様が指をさして、「これ気になる」と言ってくれた。

 

そこから、流れが変わり始めました。

1話で書いた通り徹底的に海老フライを研究。

 

何をしても響かなかった店に、やっと「反応」が返ってきた。

おいしそうに食べる顔、写真を撮る姿、また来てくれるお客様。

たったひとつの商品が、店の空気を変えてくれました。

 

「ここの海老なんかおいしいらしいよ。」

 

“売れる”じゃなく、“伝わる”。

それがどれだけ嬉しいか、思い出した瞬間でした。