お知らせ

第2話|もつ煮の話

 

 

── 3日かけても、仕上がらないことがある。

 

ムロオカのもつ煮は、仕込みから完成まで3日がかり。

ダシは7種、味噌は6種、煮込みに6時間。

でも、数字だけじゃ伝わらないんです。

 

煮込みすぎたらコクが濁る。

寝かせが浅いと、味がまとまらない。

かといって寝かせすぎると、香りが飛ぶ。

 

毎回、真剣勝負です。

 

“ガツン”ではなく“じわっ”と沁みて、

食べ終わったあとに「うまいな…」って、

静かに思ってもらえるような一杯。

 

こいつは、気を抜くと、すぐに機嫌を損ねます。

 

モツの脂の状態、肉の厚み、臭み――毎回ほんの少しずつ違う。

命をいただくというのは、そういうことなんだと思います。

 

そこに気温や出汁の状態も重なってくる。

それらすべてを、できる限りひとつに溶け込ませる。

 

「真面目に仕事しろ」

そう、毎日この鍋に教えられています。

 

怒らせたら、美味しくなくなる。

だからムロオカの料理の中でも、いちばん神経を使う。

いちばん思い入れがあって、いつも気を引き締めさせてくれる、そんな一杯です。